今回は、相続手続きに必要となる戸籍の収集について、出生から死亡まで必要となる対象者についてご説明します。
なお、最初にお断りとして、ここでは遺言書がない前提でのご説明となります。遺言書がある場合は、受贈者が相続人であるか、相続人でないかを特定するために戸籍の収集は必要となりますが、遺言書の内容に基づく相続(遺産分割協議が必要ない場合)は、今回ご説明する趣旨とは異なります。
まず初めに、1で被相続人の戸籍について説明し、2以降は、配偶者、子などが死亡している場合に、どのような戸籍が必要となるのかをご説明します。
ちなみに相続人が生存している場合は、その相続人については、被相続人の死亡日より後に発行された現在の戸籍(全部事項証明書等)となります。
1 被相続人
ご存じの方も多いと思いますが、被相続人は、出生から死亡までの戸籍が必要となります。
理由は、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍をすべて収集しなければ、被相続人の配偶者、子(直系卑属)、父母(直系尊属)、兄弟姉妹が判明せず、相続人が確定しないからです。
戸籍は、明治から現在まで、何度も新戸籍が編製されており、戸籍のルール上、新戸籍が編製される前に除籍(婚姻、死亡、養子縁組など)となった人は、新戸籍に載らないためです。
また、古い戸籍では戸主、家督相続など現在と異なる記載がありますし、核家族単位(いわゆる親と子)で記載するようになったのも昭和22年改正(昭和23年1月1日施行)による新戸籍編製からです。
戸籍法 | e-Gov 法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224#Mp-Ch_3
ですので、最新の全部事項証明書を見たとしても、配偶者や子、兄弟姉妹の存在がすべてわからないため、出生までの戸籍が必要となります。
下の図は、Aが亡くなった場合の相関図のイメージ図です。正確にはAの戸籍+子Cの戸籍、兄Oの戸籍などによってここまでわかるということになります。
2 配偶者
配偶者は、常に相続人となりますが、今回のテーマとして出生から死亡までの戸籍が必要となる場合があります。
①配偶者が被相続人の「後に」死亡している場合です。つまり数次相続です。
数次相続は別のコラムで触れていますが、数次相続とは、簡単に言うと、Aの相続後に、相続が完了する前に、続けてAの相続人であるBの相続が発生したような場合のことをいいます。
この場合に、なぜBに対して出生から死亡までの戸籍が必要になるのでしょうか。
これは、まず被相続人Aが亡くなった際、Aの妻Bは、Aの相続人ですね。そして、BがAを相続した「後に」、Bが死亡したということは、次にBの相続がありますので、Bは「Bの」相続において被相続人です。そうすると、上記1の被相続人と同じように考えるので、Bの出生から死亡までの戸籍を収集して、「Bの」子、父母、兄弟姉妹を調査することになります。
ここで、「Bの」と書いたのは、Aと婚姻する前にBには前婚の子がいるかもしれない、といったことを確認する必要があるわけです。
ただし、AとBの婚姻後の戸籍には、AとBの子は、Aの出生から死亡までの戸籍を見ればわかりますので、別途必要なのは、通常、兼用できない部分であるBの出生からAとの婚姻前までの戸籍となります。
では、次に、
②配偶者Bが被相続人Aより「先に」死亡していた場合です。
(「Bの」相続の際には、Bの出生から死亡までの戸籍が必要なのはさきほどと変わりませんが、)Bは、「Aの」相続に対しては、配偶者Bは先に死亡していることから、BはAの相続人ではありません。また、配偶者には代襲相続はありません。
この場合、相続人は誰になるのかを考えてみます。
まず、AとBの間に子Cがいる場合は、相続人はC一人です。
次に、CもAより先に死亡している場合は、次の3の子②で説明しますが、Cの子(Aの孫)が相続人となりますし、Cに子がいない場合は、第一順位の相続人はいないことになりますので、第二順位のAの父母(直系尊属)、父母(直系尊属)が死亡している場合は、第三順位の兄弟姉妹…となります。
これらのことは、Aの出生から死亡までの戸籍+子Cの戸籍により判明していきます(確定には、必要となる戸籍がすべて揃ってからにはなります。)
もう少し説明すると、
Bの前婚の子やBの父母などは、「Aの」相続では相続人ではない(「Bの」相続の相続人にはなりうる)ので、AとBが婚姻する前の戸籍の記載は、「Aの」相続には関係のないということです。
よって、Bが被相続人Aより「先に」死亡している場合、Bの戸籍は死亡の事実・死亡した日の記載がある戸籍があればよいことになります。
※補足:このケースは、Aの相続人として子Cが生存しているためとも言えます。
このコラムでは一つの相続としてのご説明をしていますが、組み合わせで二次相続があった場合は、必要な戸籍も変わってきます。
つまり、その後子Cが死亡し、かつ、Cに妻子がいない場合は、Cの相続は兄弟姉妹が相続人となるため、この時点で、Cの兄弟姉妹(半血を含む)を明らかにするため、Aの妻であり、Cの母であるBについて、出生から死亡までの戸籍が必要となってきます。
難しいですね。
3 子
次は子です。こちらも被相続人Aと、子Cの死亡の先後で考えます。
①子Cが被相続人Aより後に死亡している場合
上記2の配偶者と同じ考え方ですが、Aの相続人Cは、「Cの」相続の被相続人ですので、Cの出生から死亡までの戸籍を収集し、Cの相続の相続人を調査することになりますが、出生から婚姻等により除籍となるまでの戸籍は、Aの出生から死亡までの戸籍が使えるので、必要となるのは、例えば婚姻により除籍して新戸籍が作られた以降のものとなります。
次に、
②子Cが被相続人Aより先に亡くなっていた場合
2の配偶者と少し違うのは、子の場合、代襲相続があるので、この場合、Cの出生から死亡までの戸籍を収集し、Cの子、つまり代襲相続権者を調査する必要があります。
ただ、これについてもAの出生から死亡までの戸籍が使えますので、必要となるのは、CがAの戸籍から除籍となってから死亡するまでの戸籍となります。
理由は異なりますが、必要となる戸籍は結果として①と同じということになります。
注意点としては、婚姻や養子縁組などにより除籍したあと、離婚や離縁などにより父母の戸籍に入籍した場合は、その期間は、除籍となっていますので、その期間の戸籍は収集する必要があります。
4 父母(直系尊属)
父母(直系尊属)はどうでしょうか。
まず、父母は相続権の順位が第二順位(民法 | e-Gov 法令検索 参照)ですので、相続人に該当するかどうかをまず初めに検討する必要があります。
被相続人Aの配偶者B及び子Cが生存している、もしくは配偶者はいない(死亡、離婚など)が子Cは生存している場合、父母(直系尊属)は、相続人ではありません。
Aに配偶者も子もいない場合や、配偶者はいるが子がいない、または相続放棄等によって、次順位の父母が相続人となった場合などに、父母の戸籍が必要となります。
では、先ほどの理由(1配偶者・子がともにいない、2配偶者はいるが子がいない、3配偶者・子がいる場合に子が相続放棄した、など)により父母が相続人になる場合に、同じく被相続人との死亡の先後で見てみます。
こちらは、先ほどとは逆になりますが、一般的に多い方として、
①父母の「一方が」被相続人Aより先に死亡している場合 から見ていきます。
父母には代襲相続はありませんので、配偶者の場合と同じく、父母の死亡の事実・死亡日の記載のある戸籍のみです。
※もし図と異なり、父母が共にAより先に死亡している場合についてですが、正確には祖父母の死亡も確認し、相続人に直系尊属がいない場合に兄弟姉妹が第三順位として相続人となります。
補足:その場合には、兄弟姉妹を明らかにするため、2配偶者でご説明したように、父母両方の出生から死亡までの戸籍が必要となります。
次に、
②父母(いずれか一方でも)が被相続人より後に死亡している場合
これについてもくどいですが、父母はAの相続人であり、父母自身の相続の被相続人です。よって上記1の被相続人と同じように、死亡した父母(図では父F)の出生から死亡までの戸籍により、自身の相続の相続人が誰かを調査する必要があります。
(生存している一方は、被相続人の死亡日より後に発行された現在戸籍でよいです。)
この時点で、かなり複雑化するのですが、父F・母Mとします。
被相続人Aが死亡→父Fが死亡した場合、
Aの相続人である父Fが相続した分は、まず母Mが父Fの配偶者ですので、相続人となります。
次に、F・Mの子の一人であるAは、前提としてFより先に死亡しており、Aには妻も子もいません。
というか、だからFが第二順位として相続人となっているのですが、Aに兄弟姉妹、図で言うと兄O(F・Mの子)がいる場合は、Fの相続人は、MとAの兄Oということになります。
それらを確定するため、父Fの出生から死亡までの戸籍の収集が必要となります。もちろんAの出生から死亡までの戸籍は兼用できます。
もしF・MにA以外の子(Aの兄弟姉妹)がいない場合は、さらにFの父母(Aの祖父母)とMが相続人、死亡していればFの兄弟姉妹…となっていくわけです。
まあ現実的には、直系尊属はすでに亡くなっている可能性の方が高いので、それほど多くない事例かなと思いますが、Fの相続人は誰になるのかを戸籍で確定させる必要があります。
5 兄弟姉妹
最後が兄弟姉妹です。考え方は今までと同じです。
この場合も、4の父母(直系尊属)と同じく、配偶者と兄弟姉妹、もしくは配偶者もいない場合に第三順位として相続人となった場合です。
前提として、相続人が兄弟姉妹であることを明らかにするためには、死亡している父母の出生から死亡までの戸籍が必要となります。兄弟姉妹の全員が明らかになった後に、被相続人Aとの死亡との先後についてです。
①兄弟姉妹が被相続人Aより先に死亡している場合
兄弟姉妹には代襲相続(再代襲は不可)がありますので、上記3の子と同じく、兄弟姉妹の子(甥・姪)が相続人となります。よって、子(甥・姪)の全員を確定させるため、死亡した兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍が必要となります。
(生存している兄弟姉妹は、被相続人の死亡日より後に発行された現在の戸籍)
次に、
②兄弟姉妹が被相続人より後に死亡している場合
これもくどいですが、被相続人Aの相続人となった後、兄弟姉妹自身の相続の被相続人となりますので、兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍が必要となります。
図でいうと、兄Oの妻L、子N(Aの姪)が兄Oの相続人であること(A相続人の地位を承継したこと)を戸籍で確定させることとなります。
上記3の子の場合と同じく、兄弟姉妹は死亡している場合は、理由は異なりますが、出生から死亡までの戸籍が必要ということです。
6 まとめ
かなりのボリュームのある内容となりましたので、最後に表にまとめました。
いくつかの項でご説明しましたが、相続が二次相続になった場合などは、被相続人がそれぞれいますので、組み合わせると、これ以外の戸籍も必要となりますのでご注意ください。
たとえば、推定相続人が第二順位の直系尊属となるかは、被相続人Aの出生から死亡までの戸籍により判明することになりますが、
第三順位の兄弟姉妹が推定相続人になるかどうかの時点では、これに加えて直系尊属である父母両方が被相続人より先に死亡している旨の記載のある戸籍と、父母それぞれの出生から死亡までの戸籍が必要となります(半血を含めて兄弟姉妹の全員を明らかにするため)。
被相続人より後に死亡している、いわゆる数次相続の場合(表の水色)は、どの立場であっても必要な戸籍が同じになることがわかります。
反対に、被相続人より先に死亡している場合は、代襲相続(表の赤字)の場合と、代襲相続がない(配偶者、父母(直系尊属))とで必要な戸籍が異なってきます。また、代襲相続であっても、子の場合と、兄弟姉妹の場合では、再代襲が認められない兄弟姉妹は、その子(被相続人から見て甥・姪)が先に死亡している場合は、それ兄弟姉妹の孫の戸籍は必要ありません。
ついでに、言いますと、被相続人の死亡が旧民法の場合は、現代の民法とは、相続人自体が変わってきますので注意が必要です。
こちらのコラムにも詳しく記載していますので、ご参照ください。
相続人について
以上、かなり長くなってしまいましたが、出生から死亡までの戸籍の収集が必要となる対象者について解説でした。