相続手続きにより遺産分割が行う場合、誰がどの財産を相続するのかを協議することになりますが、それぞれの思いとは別に、手続きによるメリットデメリットはないのかを知っておくことも重要です。
今回は、いくつかの事例により、相続する人によって、こういうメリット、あるいはデメリットが考えられるということをご説明していきたいと思います。
特に明示しない限りは、被相続人(亡くなった人)A、配偶者B、子C・Dという形でご説明します。
また、目的となる財産は主にAとBが居住不動産の相続をメインにご説明していきます。
1 配偶者Bに相続登記する場合のメリット・デメリット
AとBが居住していた不動産をAが亡くなった後、Bが引き続き居住する場合に、
Bに相続登記をするとします。この場合、Bは、居住者と所有者という立場が一致する状態です。
この場合のメリットは、
Bの生活が安定した状態となりますし、今後、転居する場合に売却することや、不動産を担保に融資を受ける場合などは、Bの意思に基づいて行うことができるようになります。
Bが所有者とならずに子を所有者として、Bには居住権として配偶者居住権を相続登記と同時に登記するという方法(→3.子が相続)もあります。ただし、相続登記+配偶者居住権の登記申請が必要になります。
次に、デメリットというか、注意点になると思いますが、大きく2つを上げますと、
①二次相続による相続税の問題と、②二次相続により次に相続登記の問題です。
①二次相続による相続税の問題とは、
例えば、不動産を含め、すべての財産をBに相続させる場合で考えます。
Aの相続で、Aの相続財産が例えば、不動産、預貯金等総額が4500万円だったとします。
その場合、相続税は基礎控除額を超える場合に課税となりますが、
基礎控除額は3000万円+600万円×法定相続人(BCDの3人)=4800万円です。この場合、相続税はかかりません。
ただし、年齢順に考えた場合、次に配偶者Bが亡くなった場合の相続(二次相続)では、法定相続人はCDの2人となりますので、
基礎控除額は、4200万円(3000万円+600万円×2人)となり、相続税が発生する可能性が出てきます(つまり、A相続財産4500万円がBが死亡した際にほとんど変動がない状態で二次相続となった場合です)。
現金を生前贈与により毎年110万円以下の範囲で子に渡すなども考えられますが、生前贈与も法改正により7年以内の贈与は相続財産の対象となる(※贈与時期により加算対象分が段階的に変わります)ため、
Aの相続の際に、子C・Dも相続しておけば、Bの相続財産は基礎控除額の範囲内に抑える準備ができるわけです。
(No.4102 相続税がかかる場合|国税庁 )(nta.go.jp)
②二次相続による相続登記の問題とは、
これはデメリットとも言い切れません。メリットにもなりえますが、
単純にBが、Aの死後に、数年以内に亡くなった場合は、相続登記が必要となりますので(相続登記の義務化)、A→C(・D)にしておけば一度の相続登記でよかったかなということにもなります。
相続登記は、登録免許税がかかりますし、司法書士に依頼した場合、司法書士報酬もかかります。
ただし、子が複数人いて、どちらに相続させるのがよいか、共有にした方がよいか、まとまらないこともあり得ますし、Cに相続登記すると合意したが、状況の変化によりやはりDにしたいとなったしても、相続登記のやり直しという意味では難しくなります。
(遺産分割のやり直しは全員の合意があれば可能ではありますが、贈与となる可能性や相続登記の抹消など手続きは容易ではないと思われます)
(参照:遺産分割のやり直し|国税庁 (nta.go.jp))
そういう状況の場合に、費用はかかるとしても、まずは居住者であるBに相続登記するしておくことはメリットにもなると考えられます。
Bの年齢や、BCDのそれぞれの状況によって、いろいろと考えられると思います。
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2 配偶者Bと子C(・D)が相続する場合
次に、配偶者Bと子C(・D)が共有とする場合です。これは不動産を誰が相続するかの意味合いです。
この場合、意味としては、Bの居住者=所有者という立場を考慮しつつ、子にいずれ相続するという意向かと思います。
この場合のメリットは、
すでに書きましたが、Bの居住者=所有者(共有ではありますが)となり、Bの生活の安定があると思います。
また、Bが亡くなった場合、Bの持分の相続登記が必要になりますが、この場合、登録免許税は持分割合に減るのでその分は負担が軽減されますが、司法書士報酬としては、持分割合だからと言ってあまり関係なく費用はかかると思われます。
もう一点は、BとC(もしくはBD、BCD)の共有状態ですので、それぞれの人が、持分としてのみ所有権を持っているので、実態上、不動産を自由に処分することはできないということが挙げられます。
居住用の不動産の持分だけを売却するなどは現実問題として考えにくいので、それぞれが持分について所有権を持つことにはなりますが、実際のところ処分は難しいです。
売却する場合は、BとC(もしくはBD,BCD)の所有者全員が行う必要があります。これが牽制状態としてはメリットとも言えますし、一部の共有者が売却したいと思っても他の共有者が反対すれば売れないのでデメリットとも言えます。
また、これはデメリットとなりますが、
共有ということは、いずれB、C、Dが亡くなって相続が発生した場合の複雑化です。
例えば、Bが亡くなった場合は、相続人はCとDが相続人ですが、
BよりC(またはD)が先に亡くなってしまった場合などは特に複雑化するリスクがあります。
例えばCに配偶者Eがいる場合、Cの相続人はEとBになりますので、
BCDが共有していた場合は、B・E・Dになる可能性があります。
可能性があるという説明になったのは、「Cの持分」についてBとEで遺産分割協議をすることになるので、B・D(Bの持分がCの分増える)場合や、B・E(Cの持分)・Dとなる場合などのパターンがるという意味です。
これは、3で説明する子Cが単有となる場合にも当てはまりますが、配偶者Bと子Cの配偶者Eとの関係性も影響してくるということです。
また、Cに配偶者Eと子Fがいた場合にCが亡くなった場合は、Cの相続人はEとFになりますので、B・E(・F)・Dの状況になりえます(相続放棄等あればまた変わります)。
また、相続人が枝分かれしていくことによりリスクもあります。例えば、相続を放置していた結果、CもDも亡くなっている場合など、Cの相続人とDの相続人で遺産分割が必要となるかもしれませんし、疎遠な状況で会ったことも住んでいる場所も知らないということもありえます。
個人的には、共有は相続関係が複雑化するので、あまりお勧めしないところです。
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3 子C(またはD)が相続する場合
次に、子C(またはD)が相続する場合です。これも2と同じく居住不動産の相続登記という意味をメインで考えます。
また、このケースではCかDの単有という意味でのご説明になります。
CとDの共有は、実質的に2のB・Cの共有と検討する点は大きくは同じになります。
話を戻しまして、
子C(またはD)が単独で居住用不動産を相続した場合ですが、
1の配偶者Bが相続する場合の対比に近いかなと思います。
メリットとして、
①Bが、もしAの次に亡くなった場合(二次相続)に相続財産が基礎控除額を超えないようにする
②相続登記の費用を一回でできる
A→Bの相続登記、B→C(またはD)の相続登記ではなく、A→C(またはD)にすることにより、登録免許税や司法書士報酬は一度済みます。
このケースでは、費用と手間の軽減になるでしょうか。
デメリットとしては、
Bが居住者で、所有者がC(またはD)となることで、この時点で関係が良好であればよいですが、処分権限は所有者にあるので、法的には所有者が売却すると決めた場合、Bには居住権として一時的に認められる可能性はありますが)ので、売却することができるわけです。
それをカバーする配偶者居住権の設定登記をするという方法があります。
ただし、条件として、この場合、遺産分割の際に、配偶者居住権の合意も必要であること、相続登記と併せて配偶者居住権設定登記が必要になりますので、登録免許税(固定資産評価額×2/1000)+司法書士報酬がかかるので、費用は増えます。
(配偶者居住権は、詳しくはまた別の機会にご説明します)
また、2でもご説明したように、相続登記した子C(またはD)がBより先に亡くなった場合は、こちらも同じように相続関係が複雑化するリスクがあります。
また、子C(またはD)に配偶者Eと子Fがいる場合、相続人はEとFとなり、
Bは相続人になりません。そうすると、共有ではB・E・F・Dなど、Bも所有者の一人ではありましたが、このケースでは、Bは所有者になりません。
もし、Cの相続後、Bに居住用不動産を渡そうと思っても、これは相続にはならないので、贈与や売却という手段になってしまい、贈与税などの税金問題にもなります。
また、BとEの関係がよくない場合など、大変なことになるリスクも考えられます。
子が先に亡くなることなどはあまり考えたくはありませんが、その後の相続関係も考える必要はどうしてもあります。
もう1点、Cに相続登記したが、状況の変化によりDにしたいとなったときです。これも遺産分割のやり直しにより贈与税などの問題があります。
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4 まとめ
3つのパターンでメリット・デメリットを色々と書いてみましたが、どれも完全ではなく、リスクを最小限にするためには、相続登記+何かで補完する、ただし費用がかかるので、できる範囲までを検討してやるというのが現実的なのかな思います。
たとえば、1、2で配偶者Bが相続登記により単有、もしくは共有により所有者となった場合、Bが認知症になった場合、どうなるのかという問題があります。
Bが認知症になった場合、Bの意思表示ができないと判断されれば、後見人等を選任してもらわなければ売却等の処分はできないことになります。
ただし、予め、家族信託により定めておくことによりリスクを回避する方法もあります。信託についても専門家報酬等の費用は発生することになりますが、相続登記後であっても、認知症になる前であれば、信託を行うことはできます。
なお、司法書士の立場としては、弁護士ではありませんので、遺産分割の協議を代理することはできず、相続人全員で合意した内容を法律で認められた範囲で遺産分割協議書の作成及び登記申請の代理を行います。
よって、相談していただいた場合に、相談者の方のご状況によって、こうした方がよいとは言えません。
法的に、誰が相続(登記)をすると、二次相続があった場合、子が先に亡くなった場合、単有の場合、共有の場合、相続人は誰か、考えられるメリット・デメリット、補完できる方法はあるのか、など、可能な限りお伝えしますが、決めるのは相続人の方たちです。
考えると、本当に難しいですが、できる限り司法書士の立場として、サポートできればと思います。
以上、相続する人を誰にするかにメリットデメリットについて考える でした。
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